絶対音感は憧れますが、幼少期から音楽をやっていないと身につかないなどの説もあり、大人になってから身につけるのは厳しいかもしれません。一方、相対音感は誰でもある程度は持っているものであり、大人になってからも鍛えることが可能で、訓練すればアドリブ演奏などもできる実用的なスキルとなります。ここでは、絶対音感はあきらめて相対音感を身につけるトレーニング方法を紹介します。絶対音感に未練がある方は読まない方が良いかもしれません。
相対音感を身につけるとできること
鼻歌で歌うメロディを即座に楽器で演奏できるようになります。鼻歌は誰でも歌えると思うのですが、それを楽器で弾こうとすると結構難しいものです。最初は、音程がひとつ飛んだだけでもわからなかったりします。つまり、頭の中でイメージしたメロディを楽器で弾く時にどの音を演奏すれば良いのかがはっきりわからず、間違えた音を出しながら正解に辿り着くというのが初期段階だと思います。
相対音感の定義は、2つ以上の音を聞いて、その音同士の関係や音程の差を認識できる音感です。例えば「ド」と「ミ」を聞いて、それが長3度の関係にあると判断できます。(音程の度数についてはこちら)
相対音感が鍛えられると、頭の中でイメージしたメロディに音程をつけることができるようになります。次の音は今の音からどれぐらい離れた音なのかがわかるため、最初の音さえ決めればあとはイメージ通りに演奏できるようになります。
絶対音感でももちろんできますが、大人になって絶対音感があまりついていない場合は、相対音感を鍛えた方が上記のような鼻歌演奏を実現しやすいです。鼻歌演奏ができることは、すなわちアドリブ演奏ができるといっても過言ではありません。もちろん複雑なスケールを用いた独特のメロディなどはスケールの知識も必要ですが、基本的には相対音感だけでアドリブ演奏可能になります。
和音やハーモニーの聞き取り、作曲など多くの音楽活動は相対音感で十分通用します。あと、歌も上手くなります。絶対音感でもこれらはもちろんできますが(私は絶対音感がないのでその感覚がわかりませんが)、実用的な部分に関しては相対音感で十分やっていけると思います。そして、すでに大人になってしまった方にとっては、絶対音感を身につけるよりも相対音感を身につける方が圧倒的に楽だと思います。
そこで、この後は相対音感をつける簡単なトレーニング方法を紹介していきます。絶対音感をあきらめた方用です。
移動ドで譜読みする
ソルフェージュ(音感教育)における音階の読み方には、大きく2つの異なる読み方があり、固定ドと移動ドがあります。多くの場合、ソルフェージュでは固定ドでの読み方でトレーニングされます。
固定ドでは、「ド」は常にCの音を指します。つまり、どのキーであってもCの音が「ド」、Dの音が「レ」として読みます。音階のキー(調性)によって呼び方は変わりません。音の高さそのものを覚えやすくなり、絶対音感を身に付けるのに適しています。音そのものを具体的な名前で認識できるので、楽譜を見て即座にピッチを判断するのに便利です。
一方、移動ドでは、音階の最初の音(主音)を「ド」として認識します。つまり、CメジャーのキーではCの音が「ド」ですが、DメジャーのキーではDの音が「ド」となります。このように、調によって「ド」の位置が変わります。この読み方は、音と音の関係性や和音の機能を理解しやすくなり、相対音感を身につけるのに適しています。主音が常に「ド」となるので、メロディーの中での各音の役割や、和声進行が理解しやすくなります。
楽譜ありきのクラシックの世界では、「移動ドなんてありえない!」と思われておりますが、ポピュラー音楽やジャズ等でアドリブ演奏を練習する場合は、移動ドの方が良いとも言われております。
ここでは、絶対音感をあきらめた方が対象のため、亜流である移動ド読みを紹介します。
下の例は、バッハのメヌエット(ト長調)のメロディを例として、固定ドで読む場合と移動ドで読む場合の違いを示します。
固定ドの場合、楽譜の音名通りにドレミで読みます。つまり普通に読みます。ト長調なのでファに♯がつきます。3小節目にでてくるファは♯になりますが、ファと読んで頭の中でファ#と認識しています。そして読みながら歌います。この時点で違和感を感じる方はもうすでに相対音感派の方です。
次に移動ドの場合ですが、ト長調なのでソの音が主音になるため、ソをドにして歌います。「ソラシドレミファ#ソ」を「ドレミファソラシド」に変換して歌います。これで歌ってみましょう。楽譜の読みづらさは置いておいて、歌い方だけでこちらの方がしっくり来る方は相対音感派の方だと思います。
どちらも何も感じない方は、これからどちらでも選べる方です。
相対音感をトレーニングするためには、下の段の移動ドで歌うことをおすすめします。譜読みは固定ドでも良いのですが(移動ド読みができればすごいのですが難しいので)、相対音感をトレーニングする時だけ、移動ドで歌います。譜面を見ながら歌うのではなく、覚えたメロディを鼻歌のように移動ドで歌うことをします。普段、つい鼻歌で歌っちゃうような自分の好きな曲でやることをおすすめします。これをただの鼻歌で歌うのではなく、移動ドの音階で声にだして歌います。最初はどの音かわからないと思いますので、楽譜をみたり、楽器で音を確認しながら、移動ドの歌詞を作ります。
移動ドの歌詞ができたら、それを毎日歌います。そしてだんだんとレパートリーを増やしていきます。慣れてきたら短調の曲もレパートリーに入れていきます。これだけでぐんぐん相対音感がついていきます。
ある時、街中で聞こてくるBGMがドレミ(移動ド)で聴こえるようになります。絶対音感持ちの方は固定ドのドレミで聴こえるらしいですが、私たちも同様に2小節目ぐらいから移動ドのドレミで聴こえるようになってきます。
移動ドにおけるシャープやフラットの歌い方
移動ドで歌うときに問題となるのが、シャープやフラットの音をどうやって声にだして歌うのかです。固定ドでも同じ問題はあるのですが、固定ドの場合、声に出すときはシャープやフラットは省略して歌い、頭の中でシャープやフラットを認識しているようです。
絶対音感がある方はそれでできるのかもしれませんが、私はファとファ#を同じ「ファ」で発音することに違和感を感じておりました。そこで、独自にシャープやフラットに発音しやすい音名をつけて練習しようと思いました。(同じような方法で移動ド歌唱する方もおられます)
5種類の半音の音に歌いやすいように一文字の音名をつけます。これは自分がわかれば良いので何でも良いと思います。誰かの前で歌うわけではないので、自分が覚えやすく歌いやすい音名をつけてあげることが良いと思います。
ここで、私がやっている例を紹介させていただきます。下の図のようにハ長調でピアノの黒鍵の部分になる音に名前をつけています。
自分の中のルールとしては、シャープの音はその音の母音をイ行にします。フラットの音はその音の母音をエ行にします。シャープとしてよくでてくるのが、ファとドです。これらのシャープをフィとディにします。フラットとしてよくでてくるのが、シとミです。これらのフラットをテとメにします。(シは海外ではTiと発音されることがあるため)
そして、ソのシャープとラのフラットはほぼ同じ確率ででてきそうですが、便宜上ソのシャープでスィにします。スィとシが紛らわしいですが、ここは英語のseaとsheの違いのように、スィがsea、シがsheで区別できればなんとかなります。それかシをティと発音しても良いかと思います。
厳密にはシャープで使う場合とフラットで使う場合で違う音名にできれば良いのですが、覚えるのが大変になりますので、これでほぼ大丈夫です。移動ド読みなので調号が複雑な場合でも、基本的にはドレミファソラシドの音がほとんどになります。たまにでてくるシャープやフラットは上記でほぼ対応できます。
要するに何でも良いので自分でルールを決めて歌えれば良いと思います。
楽器演奏への応用
楽器演奏をする際にも、この移動ド読みを頭の中で歌いながら演奏します。できれば声に出した歌いながら演奏できると良いです。(管楽器では無理ですが)いろんなことに意識を使わなくてはいけなくなり結構難しいと思います。最初は歌だけで歌えるようにすると良いです。鼻歌のように移動ドで歌えるようになったら、それを歌いながら楽器でも演奏します。
これをやり続ければ相対音感は身に付きますし、アドリブ演奏もできるようになっていきます。
ただ、楽器によってやりやすい楽器とそうでない楽器があります。ギターのような弦楽器はやりやすいです。運指がキーに依存せずに平行移動できるため、移動ドとの相性が良いです。
ギターの場合、ある基準点からどのポジションが基準音に対して何度の音になるかが決まっていてこれは普遍になります。(変則チューニングの場合は別です)ですので、移動ドでのドの位置さえ決めてしまえば、あとの音はどこにあるかはたやすくわかります。
逆にフルートなどの管楽器では音によって指の押さえ方が決まっているため、キーが変わると移動ド方式は結構大変になります。それでも絶対音感をあきらめるつもりでしたらおすすめできます。フルートのスケール練習をさまざまな調で練習する時に、頭の中で移動ドで歌います。さすがにフルートの運指を覚えるまではやらない方がよいですが、ひととおり全ての音の運指を覚えたら、移動ドで歌いながらの練習も、楽譜を読まずに自由気ままに吹きたい方にはおすすめできます。絶対音感がなくても鼻歌のようにフルートが吹けるようになると思います。