ドミナントモーション

ドミナントモーションとは、5度下がる(4度上がる)コード進行で、よくあるドミナントモーションとしては、G7→Cや、D7→G等のような、5度のセブンスコード(V7)から、1度のコード(I)に進行する終止形です。それ以外にも普通のコード進行に用いられたり、転調する前の進行として用いられる場合もあります。ここでは、ドミナントモーションの仕組みや使い方を紹介していきます。

ドミナントモーションと調号の関係

このドミナントモーションですが、前で説明した調号と深い関係があります。ドミナントモーションはコードの主音が5度下がる(4度上がる)進行なので、このドミナントモーションを繰り返すと、12回進行したところで12種類の音を経由し、元の音に戻ってきます。これを下の図に書いてみます。

この図では、ドミナントモーションは時計と反対回りで進行します。各音の調号を記載してみると、ドミナントモーションをするたびにコードが5度下がり、そのコードをキーとした調号は、#が1個減るもしくは♭が1個増えるようになります。つまりこの円の図を覚えると、調号も覚えられるし、ドミナントモーションの進行も覚えられます。いきなり全部覚えるのは大変なので、Cから#が1個増えたらG,♭が1個ついたらFなどのように、Cに近いところから覚えていくと実用的かと思います。

V7→I の進行

ドミナントモーションといえば、V7 → I の進行で、V7を弾いたら自然に I に行きたくなるほどの進行力をもっています。キーがCの場合は、G7→Cという進行になり、曲の最後はこの進行で終わることが多いです。

なぜ、これほどまでに強烈な進行力をもっているのかというと、トライトーンという音の不安定さがキーポイントとなります。下にG7のコードの構成音を書きました。ソ、シ、レ、ファです。このシとファがトライトーンという音程のインターバルで半音6個分です。音階は12種類なので、ちょうど半分の6個は調和しそうなのですが、不安定さが際立つインターバルです。(余談ですが、半音7個が一番調和するインターバルです)

このトライトーンが含まれるコードが鳴ると、その不安定さを解消すべく行きたい先があります。それがトニックのコードで、長3度のインターバル(半音4個分)に落ち着きたくなります。G7の場合は、シ・ファがド・ミに落ち着きたくなります。

内側に半音ずつ移動するだけでこんなにも落ち着くのかという進行です。実際にこの、シ・ファ → ド・ミ を演奏してみると、ドミナントモーションの感覚がわかります。音楽の授業でおじぎをする時の合図の音も C→G7→Cで、G7→Cの部分がドミナントモーションです。

III7 → VIm の進行

つぎにマイナー調の時のドミナントモーションの終止形はどうなるのかというと、Am(VIm)のキーで考えてみます。ダイアトニックコードの中で、Amの5度上になるコードは、Em7(IIIm7)になります。ですが、Em7にはトライトーンのインターバルになるコード構成音はありません。ですので、マイナー調の場合は、Em7を少し変えて、E7(III7)がドミナントモーションとして使われます。この進行で使われるこのコード(III7)をセカンダリードミナントともいいます。

では、E7のコード構成音を見ていきたいと思います。

E7の構成音は、ミ、ソ#、シ、レになります。ソが#になっているのは、ダイアトニックコード上のEm7をE7に変化させるためにソをソ#にしています。こちらAmのスケールをハーモニックマイナーにしてみたとも考えられます。

このE7のソ#とレがトライトーンのインターバルになっております。したがってこのコードも不安定さを持っていて、どこかに落ち着きたいと思います。先ほどの V7 → I の例を当てはめて進行させると落ち着き先はAになります。もちろんAにも行けます。ですが、今回はマイナー調で考えているので、III7 → VIm で考えると Amに行きます。

ソ#→ラは半音ですが、レ→ドは全音となり、ここだけV7 → I と異なります。ですがこれもかなり強い進行力があり、鳴らしてみるとさきほどの V7 → I のマイナーバージョンだということがわかると思います。

いずれにしても、前段にトライトーンのコードがあるところは同じです。

VIIφ → III7 → VIm の進行

トライトーンを含むコードがダイアトニックコードの中にもうひとつあります。それが7番目のコード、VIIm7(-5)です。VIIφ(ハーフディミニッシュ)とも呼ばれたりします。

キーがCの場合、Bm7(-5)となり、コードの構成音は、シ、レ、ファ、ラとなります。

この、5度の音が減5度となっているため、1度と5度の音のインターバルがトライトーンになっています。したがって、このコードも不安定さを持っており、どこかに行きたいはずです。

このコード自体が不安定さとマイナー調の響きを持っているため、このコードが鳴った時点でマイナー調の進行になります。ただ、直接Amに行くことはできず、先ほどのE7を経由してのAmへの進行になることが多いです。つまりこのコードは、III7に行きたくなり、さらにIII7はVImに行きたくなるということです。なので全体としては、VIIm7(-5) → III7 → VIm という進行になります。

結局のところ、③と⑦の音(レ・ラ)が内側にずれて①と③(ミ・ソ#)になっております。

その他の進行

このドミナントモーションの進行ですが、もう少し範囲を拡げると、上記のような終止形の進行だけでなく、曲の中でコードの主音が5度ずつ下がる進行もドミナントモーションと言います。ツーファイブワンと呼ばれるような、2度→5度→1度の進行も、一番上の図の反時計回りの進行になります。Dm→G7→Cのような進行がよくあると思います。DからCに向かって反時計回りの進行になっています。ジャズなんかでは、Em7→A7→Dm7→G7みたいな進行よくでてきます。これも5度進行なので、上の図の反時計回りの進行です。

また、トライトーンを利用した終止形もまだあります。ひとつはV7の3度と7度をひっくりかえしたドミナント・セブンスコードがあり、裏コードと呼ばれたりします。また、ディミニッシュハーフディミニッシュもトライトーンを含みますので、こういうコードを利用すれば転調やいろんなコード進行のバリエーションが増やせます。